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ヲタク只今充電中!

読了 『傘を持たない蟻たちは』/加藤シゲアキ





加藤シゲアキの文章は読んできた。アイドル誌の連載からブログ、処女作から3冊連続の長編。人より少し贔屓目に評価をしながら読んできた。しかし、連載は読んでいなかった。 単行本を買おうという考えもあるがもう一つは、加藤の作品に少し飽きてきていたからだ。Burn.のときに行き詰まった加藤の姿が少し見え隠れしたような気がして、作者の顔がちらつくくらいなら読まないほうがいいのでは?と感じた。傘を持たない蟻たちは。彼は、加藤シゲアキらしさを失っていなかった。加藤の行き詰まった姿はそこにはなかった。Burn.は、ドラッグクイーンの存在や、ミズミンの登場は面白かった。しかし、徳さんの描写が薄っぺらく、もったいないように感じた。
しかし、加藤は一皮向けた。
『染色』を読み終えたときの感想だ。それは性描写が要因ではない。加藤の持ち味でもあり、課題でもある「与えすぎる情報」は作品にとって重要となる色彩を美しく表現していた。色彩の中で、絵画を描き、そして男女はひとつとなる。一連の流れが滑らかだった。いちシゲのファンとしては、批評に使われる高圧的な言葉や、斜め上目線はシゲらしくて思わずクスリと笑ってしまった。
加藤の作品にはいらない人物が登場する。いらないというより、影の薄い登場人物。シゲが元来そういう立ち位置にいて、加藤がそういう人を好むからであろう。例えば、ピンクとグレーのスタンドバイミー。3人で良かったのではないか?(スタンドバイミーは映画でも四人組だか…)、MORSEのコメちゃんもいらないといえばいらない。


『undress』ではそういう人物が一人もいなかった。最後まで読むとまた読み返したくなるようなそんな作品だった。ちなみに私はこの物語が一番好きだ。自信と自由。自分で得たと思っていたそれは、いつのまにか誰がに操られていたもので、自我の喪失。裏切り。成功。そして失敗。人間が自由と欲望のままに生きる。赤いペンはその象徴だった。部下たちはペンとともにオオニシバカヤロウと決別した。しかし、渡した方は…。大西に希望を与えた加藤は優しすぎる。私はそのまま絶望の淵に立たせていても…とつい思ってしまった。


ヲタク気質を持ったシゲは、多分妄想好きだと思う。そして、アイドルである彼はまっとうな恋愛などしてこなかったであろう。だからこそ、恋愛に何か高貴なものを感じているのではないか…。そう感じたのは

恋愛小説(仮)
を読んだ後だった。私は、SFは得意ではないがこの手のファンタジーものは好みだったりする。気に入った作品のひとつだ。主人公は、死んだ初恋の相手の欲望を満たすことで彼自身の欲望を満たしていった。自己満足。彼はそれに気付くまで泥沼に落ちていく。加藤の泥沼に落ちていく文章はねっとりしていて、加藤の闇を感じさせる。シゲの闇と思うとぞっとそるが、人間臭さがぷんぷんするそこの表現は小説のスパイスとしてとてもきいている。帯の推薦文「言葉の孤独/園子温」を感じたのはこの作品だろう。


イガヌの雨
SFは嫌いだが、この作品が加藤の伝えたいことが一番伝わってきたような気がする。シゲは料理好きなほうだと思う。そして、美食家だ。イガヌという未確認生物に陥る人間と、祖父の食に対するこだわり。イガヌの雨が降ったときの人間の行動の描写は思わず目をそらしたくなった。そして最後。喉をゴクリと鳴らす主人公。彼女もまたイガヌの呪縛にハマってしまった。あまり好みではないが、加藤の新しい道を開拓するには、素晴らしい作品だったのではないかと思う。



インターセプト
シゲはアイドルだ。多数の女性に騒がれ、笑顔を振りまき、そういう仕事だ。だから加藤は知っている、女の本当の怖さを。「怖さ」を描いたインターセプトインターセプトの意味は球技で相手の球を奪うこと。球技が苦手なシゲの書く題材がこれかと思うと笑ってしまう。女の本性が男目線で書かれてる途中に気づいてしまうのが、残念だ。スマートフォンのところで気づいてしまった。もしかしたらもっと前に気付く人も…。舞台は結婚会場。ピンクとグレーと同じくカクテルも多く登場する。元来の加藤らしさ、そしてアイドル加藤シゲアキが色濃く出ていた作品ではないかと思う。


にべもなく、よるべもなく
今作唯一の書き下ろし作品であり、加藤が中学時代に書いた小説がベースとなっているもの。中学時代に同性愛をテーマにするとは、変わった中学生だなと思ったが、改めて考えてみるとそうでもなかった。シゲは2001年、中学二年生の時に3年B組金八先生第6シリーズに出演している。上戸彩が性同一性障がいに悩む鶴本直を演じたシリーズ。シゲは彼女と知らずメールのやりとりをしている長谷川賢を演じた。シゲには、その期間性について考えさせられる場面が幾度となくあったのだろう。そして、シゲが導き出したのは「気持ち悪い」しかし、その人自身は「好き」だったのかもしれない。青春の疾走感とともに描かれた重いテーマ。彼もまた青春の中で土手に座りながら何かを思い、それを誰かにぶつけたくて仕方なかったのではないか。一番シゲの顔がちらついたが、それでも満足感の高い作品だったのは、小説家としてのスタートが金八先生かもしれないという嬉しさなのか、青春時代の加藤シゲアキを垣間見た喜びなのか…。


自信を持ってオススメしよう。
加藤シゲアキの物語は面白い。